この記事でわかること

デジタル庁が行政手続の調査データ約75,000件を、MCP経由でAIから分析できる形で公開した。発表を読んで面白そうだと思ったものの、「で、具体的に何が聞けるのか」がいまいち掴めなかったので、手元で動かして実際に質問を投げてみた。この記事では、人生のイベント別に行政手続が何本あるのか/住宅購入の手続はどこまでオンライン化されているのか/どの士業が手続に関わっているのかを、実際に出てきた数字で紹介する。セットアップは3コマンドで終わる。

記事概要図

人生のイベント別に、行政手続は何本あるか(個人・全75,071件のうち) 出典:デジタル庁「行政手続等の棚卸調査結果(令和6年度)」を実際に集計 税金 2,540 死亡・相続 1,460 医療・健康 1,449 引越し 785 就職・転職 754 介護 522 結婚・離婚 517 出生・こども 509 年金の受給 451 住宅の購入・保有 343 ← この記事で深掘り 自動車の購入・保有 145 妊娠 111 ※「その他」に分類された約3万件は上のグラフから除外している ※1つの手続が複数のイベントに紐づく場合があるため、合計は総数と一致しない

発表は読んだ。でも「何が聞けるのか」が掴めなかった

デジタル庁が2026年8月13日に、行政手続等の棚卸調査データをMCPサーバー経由でAIから分析できるようにしたと発表した。約75,000件のデータを自然言語で聞ける、という話だ。

MCPというのは、AIと外部のデータやツールをつなぐための共通の作法だと思ってもらえばいい。自分もGoogleサーチコンソールとGA4をMCPでClaude Codeにつないでいて、ブログの数字を毎週それで見ている。だから仕組み自体は馴染みがあった。

ただ、発表を読んだだけだと「府省庁別・手続類型別のサマリー分析ができる」といった説明で、自分が何を聞けば何が返ってくるのかが具体的に浮かばなかった。こういうときは動かしてしまうのが早い。幸いソースコードもデータの取得コマンドも公開されていた。

セットアップは3コマンドで終わった

やったことはこれだけだ。

git clone https://github.com/digital-go-jp/administrative-procedures-mcp.git
cd administrative-procedures-mcp
uv sync --extra excel
uv run apcli fetch procedures-survey-r6

最後の fetch が、デジタル庁の配布ページから調査結果のExcelを取ってきて、Parquetという分析向けの形式に変換してくれる。実行するとこう出た。

Fields:  38 (of 38 defined)
Records: 75071
CSV:     14317 KB → Parquet: 3203 KB
Ratio:   77.6% smaller

14MBのExcelが3.2MBまで縮んだ。 75,071件・38列。ここまでで数分だった。

ありがたいのは、Claude Desktopに繋がなくても apcli というコマンドラインツールで同じデータを叩けることだ。今回の数字は全部これで出している。

具体例①:人生のイベント別に、行政手続は何本あるか

38列の中に 手続が行われるイベント(個人) という列がある。結婚とか引越しとか、人生の場面と手続を紐づけた列だ。これで集計すると、冒頭の図の数字が出てくる。

改めて多い順に並べるとこうなった。

ライフイベント手続の本数
税金2,540
死亡・相続1,460
医療・健康1,449
引越し785
就職・転職754
介護522
結婚・離婚517
出生・こども509
年金の受給451
住宅の購入・保有343
自動車の購入・保有145
妊娠111

死亡・相続が1,460本というのが目を引いた。 引越しの倍近くある。相続の手続が大変だという話はよく聞くけれど、制度の側から数えてもこれだけの本数が並んでいるわけだ。

ちなみに上の表に入っていない「その他」系が約3万件ある。ライフイベントに紐づけにくい事業者向けの手続などがここに入っている。

具体例②:住宅購入の手続、オンライン化はどこまで進んでいるか

自分は住宅ローンの記事をいくつか書いてきたので、住宅まわりが気になった。343本の手続が、どこまでオンラインでできるのかを聞いてみる。

結果はこうだった。

オンライン化の状況住宅の購入・保有(343件)全体(75,071件)
実施済113(32.9%)36,315(48.4%)
未実施103(30.0%)22,695(30.2%)
その他108(31.5%)13,235(17.6%)
一部実施済19(5.5%)2,416(3.2%)
適用除外0407(0.5%)

ここで「住宅購入の手続はオンライン化が遅れている」と書きたくなる。実施済が32.9%で、全体の48.4%より15ポイントも低いからだ。

でも、内訳をよく見ると話はそう単純じゃない。

「未実施」の比率を比べると、住宅は30.0%、全体は30.2%でほとんど同じなのだ。差がついているのは「実施済」が少ないことと、その分「その他」が31.5%と全体の倍近くあること。

そして、この「その他」がどういう状態を指すのかは、データの定義ファイルを見ても説明が書かれていない。「一部実施済」には「府省共通手続において一部の実施府省庁がオンライン化実施済の場合」という説明があるのに、「その他」だけ空欄なのだ。

つまり正確に言えるのはここまでになる。住宅購入まわりは、はっきり「実施済」と言える手続の割合が低い。ただし「未実施」が多いわけではなく、分類しきれない手続が多い。 一歩踏み込んで「遅れている」と断定するには、その他108件の中身を個別に見る必要がある。

AIに「住宅購入の手続はオンライン化が進んでいますか」と丸投げで聞いていたら、たぶん最初の数字だけを見て「遅れています」と返ってきたと思う。数字が正しくても、読み方で結論が変わる。

ついでに所管の内訳も出しておく。

所管府省庁件数
国土交通省172
総務省67
財務省42
法務省16

国交省が半分を占める。残りは固定資産税まわりの総務省、税の財務省、登記の法務省という並びで、家を買うときに複数の役所が関わる実感と一致していた。

具体例③:どの士業が、手続に関わっているか

申請に関連する士業 という列もある。これで集計すると、こうなった。

士業手続の本数
士業が介在しない26,669
弁護士3,614
行政書士3,342
税理士1,594
社会保険労務士911
弁理士886
海事代理士787
司法書士666
公認会計士192
土地家屋調査士59
中小企業診断士42

行政書士が3,342本で、司法書士(666本)の5倍あるというのは意外だった。名前が似ているので混同されがちだけれど、関わる手続の幅がこれだけ違う。

なお、この列は空欄のレコードも多いので、合計は75,071件にはならない。全手続の網羅的な内訳ではなく、記入がある範囲での傾向として見るのが正しい。

このデータで聞けること・聞けないこと

ここまで触ってみて、範囲がはっきりしたので整理しておく。

聞けることは、行政手続そのものの棚卸しだ。どの省庁の・どの法令に基づく・何という手続が・年間何件あって・オンライン化はどうなっていて・何を添付させて・どの士業が関わるか。数値の列は「総手続件数」「オンライン手続件数」「非オンライン手続件数」の3つで、あとは分類と説明が並んでいる。

聞けないことは、経済や社会のデータだ。不動産の価格、金利、世論調査、選挙。これらはこのデータセットの対象外になっている。行政の事務の台帳なので当然といえば当然だ。

じゃあそういうデータはどこにあるかというと、別の場所にちゃんとある。しかも一部はMCPどころかAPIキーすら要らない。たとえば国債の金利はこれで取れる。

curl -s https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/jgbcm.csv

実際に叩くとこう返ってくる。

基準日,1年,2年,3年,5年,10年,20年,30年,40年
R8.8.13,1.4,1.651,1.815,2.134,2.873,3.741,4.002,4.006

1974年からの全期間版も直リンクで置いてある。日本銀行も2026年2月から時系列統計のAPIを出していて、こちらも登録不要だ。不動産の取引価格や地価は国土交通省の「不動産情報ライブラリ」にAPIがあり、こちらはキーの申請が要るが無料になっている。

公的データは思ったより開いている。 ただ置き場所がバラバラなので、どこに何があるかを知っているかどうかで差がつく、という状態だと感じた。

3つの結論

1. 発表を読んで分からなければ、動かしたほうが早い。 今回はセットアップから最初の集計まで、待ち時間を入れても30分かからなかった。公開されているものは、たいてい手元で試せるようになっている。

2. 数字が出ても、読み方で結論が変わる。 住宅購入のオンライン化率がまさにそれで、実施済の比率だけ見ると「遅れている」、未実施の比率で見ると「全体と同じ」になる。AIに集計させる場合ほど、内訳と定義を自分で確認する手間は省かないほうがいい。

3. データの範囲を先に掴んでおくと、探し方が変わる。 行政手続の台帳と、金利や不動産のデータは別の場所にある。それが分かっていれば、次に何かを調べたいとき「まずどこを見るか」で迷わずに済む。

自分のように公的データを触りながらPythonやデータ分析の勘所を掴みたい場合は、手を動かす題材として悪くないと思う。体系立てて基礎から押さえたいならUdemyで講座を探す(セール時が狙い目)のも早い。自分は必要な部分だけ拾う使い方をしている。

MCPそのものの仕組みや、自分の作業をAIに任せる設計の話はClaude Codeスキルの作り方のほうに書いてあるので、あわせてどうぞ。